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『経済倫理=あなたは、なに主義?』

アンケート結果20091023

 

 

■若森みどり先生の講義での結果です。

 

首都大学東京における2009年度後期の講義「社会経済思想(=産業社会思想U)」にて、若森みどり先生が行ったアンケートの結果です。2009年10月6日、初回のガイダンスにおいて、『経済倫理 あなたは何主義?』のアンケートを実施していただきました。( )の中身は、「現代とはどういう時代ですか?どんな社会問題に直面していると思いますか。いくつあげても可」、という質問に対する解答です。(回答者43名)最後に、私のコメントを付します。(200910)

 

 
リベラリズム 合計 15名
内訳:
リベラリズム XYYY 12名
(格差社会、少子高齢化、日本の外交の見直し、金融不安、雇用問題、ゆとり教育の見直し、医療・年金問題、国家介入のバランス、政治・経済の大荒れ、消費税増税)
リベラリズム XYYX 3名
(格差、企業の倫理、自由と介入の新しい線引き)
 
マルクス主義/啓蒙主義(1) XXYX 5名
(少子高齢化、日本において「出る杭は打たれる」傾向、国際関係における日本の位置、国家間の戦争と侵略、地域紛争、食糧不足による貧困)
 
新保守主義(ネオコン) YYXY 3名
(社会と隔絶した孤独、格差、健康保険制度、情報過多と過熱報道による犯罪助長)
 
新自由主義(ネオリベ) XYXY 2名
(格差社会と最低限度の生活保障、民主党政権による経済秩序の混乱、自民党に政権が戻っても秩序は回復しない)
 
地域型コミュニタリアニズム YXXX 1名
(情報過多、不確実性、自己中心主義)
 
国家型コミュニタリアニズム YYXX 2名
(経済成長と環境問題、不況、雇用、失われた10年、新自由主義)
 
平等主義/啓蒙主義(2) XXYY 1
(人口過多、自殺、戦争)
 
共和主義 YYYX 8名
(貧富の差、労働組合の無力化、経営者の貪欲、地方の疲弊と都市部への一極集中、グローバル化、教育格差、企業間格差、秩序と道徳の不安定化、金融不安、アメリカの民主党政権、日本の民主党政権)
 
近代卓越主義 YYYY 5名
(環境問題、世界的経済不況、グローバル化のなかでの国内産業の再建、自殺率、富裕な時代なのに幸福度が低い、持続可能な社会)
 
耽美的破壊主義/支配者嫌悪主義 YXYX 1
(現在は過去になる。現代の問題を相対化して捉える視点が欠如している。)

 

 

以下、橋本のコメントです:

 

 若森みどり先生、昨年度に引き続き、今年度もアンケートの結果をご報告いただき、ありがとうございました。

前回と同様に、拙著『経済倫理=あなたは、なに主義?』における私のアンケートの分類について、簡単に補足しますね。

リベラリズムは、XYYXと、XYYYのいずれでもあるので、このタイプに分類される人は、おのずと多くなるでしょう。リベラリズムにおけるこの「幅」の問題ですが、これについては拙著第三章で、別の観点から、「主体化」型と「ヒューマニズム」型の二つに分類して、リベラリズムの内容をさらに検討しています。リベラリズムは現代の多数派なので、その内部の対立について、もっと細かくみる必要があります。そのためには、拙著第一章のアンケートは不十分なので、第三章が役立つと思います。

新保守主義の立場は、YYXXとYYXYのいずれでもあります。ただし私の分類では、YYXXを「国家型コミュニタリアニズム」と名づけています。新保守主義と国家型コミュニタリアニズムは、発想がとても近いのです。YYXXは、分類上はいずれでもあるわけですが、この二つの思想がどのように異なるのかについては、拙著第二章の説明をご参考にご判断ください。新保守主義については、67-71頁, 国家型コミュニタリアニズムについては、76-80頁です。

 

 さて、今回のアンケート結果では、また前回と違う傾向がでましたね。とくに「マルクス主義」に分類された人が多いこと。そして前回は誰も選ばなかった、「共和主義」も人気がありました。この結果にはおそらく、昨年来のマルクス・ブームと、民主党政権の誕生が深く関係しているのかもしれません。マルクスに対する理解が深まり、このイデオロギーを選択することが、それほど違和感なく受け入れられるようになったのかもしれません。それから民主党政権によって、リベラルに介入する政府の正当性を、人々は認めるようになってきたのかもしれません。

 興味深いのは、「共和主義」に分類された人が、格差問題と金融恐慌と民主党政権誕生という、時事問題の最もメジャーなテーマに反応していることです。これに対して「近代卓越主義」に分類された人は、環境問題や持続可能性に関心を示しています。また、「マルクス主義」に分類された人は、国際的な問題に関心を示しています。マルクスは思想として、グローバルに物事を考えるための契機を与えている、ということですね。前回のアンケートでは、格差問題に関心を示した人はマルクス主義に分類されましたが、今回は「共和主義」に分類されました。これも興味深い結果です。マルクスが読まれるようになって、マルクスに理解を示す人たちは、国内問題に限定されない視野を手に入れたのかもしれません。そして問題の本質がグローバルなものであることを理解するようになったのかもしれません。これに対して、民主党政権の誕生は、人々のイデオロギー意識に大きな影響を与え、格差問題の解決を民主党に期待する人が増えているのかもしれません。

立場の分類と関心事項のこうした対応関係は、とても意義深いと思います。どんなイデオロギーが、どんな社会的関心とともに育まれる傾向にあるのか、ということを示しています。ということは、もし私たちが社会問題に対する関心を変化させて、自分がふだん関心を持たないような新聞記事を読む習慣をつけていくと、それだけでも自分のイデオロギー傾向は変わるかもしれませんね。

 今回のアンケート結果で、「共和主義」の問題を重視しなければならないことを、私は改めて感じました。若森みどり先生、そしてアンケートに応じてくださった皆様、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。